こんにちは、ロンドン在住のオクタです。
ロンドン在住の日本人にとっては、税金のことは日々の生活や将来設計に関わる重要なテーマですよね。
日本とイギリスでは税制が異なるため、理解していないと思わぬ損をしてしまうことも。
ということで、今回は、2025/2026年度に予定されているイギリスの税制改正の中から、個人的に気になった5つのポイントに絞って、実際の影響や対策方法まで含めて、内容を解説してみたいと思います。
今回のトピックは以下の5つ:
- キャピタルゲイン税の増税
- 相続税の改正
- ノン・ドム税制の廃止
- 燃料税の凍結と延長
- 印紙税(スタンプデューティ)の追加課税
それでは1つずつ詳しく見ていきましょう。
1. キャピタルゲイン税の増税
キャピタルゲイン税(Capital Gains Tax: CGT)は、不動産、株式、投資信託などの資産を売却した際に生じる利益に課される税金です。これまでの税率は、基本税率(Basic Rate)の納税者で10%、高額所得者(Higher Rate)で20%でしたが、2024年10月30日の変更で、基本税率は18%、高額所得者は24%に引き上げられています。
不動産については、居住用不動産(residential property)による売却益は以前から他のキャピタルゲインより税率が高かったため追加増税とはなりませんが、非居住用不動産の税率が据え置きとなることで、全体の税率が統一されてきている状況となります。
種類 | 所得帯 | 旧税率 | 新税率 |
---|---|---|---|
居住用不動産 | 高額所得者 | 24% | 24%(据え置き) |
居住用不動産 | 基本税率 | 18% | 18%(据え置き) |
非居住用不動産 | 高額所得者 | 20% | 24%(引き上げ) |
非居住用不動産 | 基本税率 | 10% | 18%(引き上げ) |
💡キャピタルゲイン税の「非課税枠」
イギリスでは、資産を売却して得た利益(キャピタルゲイン)のうち、年間一定額までは税金がかかりません。これを「Annual Exempt Amount(非課税枠)」と呼び、2024/2025年度以降は£3,000となっております。
2023/24年度は£6,000が上限、2022/23年度は£12,300が上限だったので、悲しいことにどんどん非課税枠は減少しています。
参考: https://www.gov.uk/guidance/capital-gains-tax-rates-and-allowances
影響:
- 投資や副収入による資産形成をしている人には増税となる可能性が高い。
対策:
- ISA(Individual Savings Account)など非課税制度をフル活用する。
- 年度をまたいだ売却で利益を分散するテクニックを使用する。
2. 相続税の改正
イギリスの相続税(Inheritance Tax: IHT)は、個人が亡くなった際に遺された財産に対して課税されます。基本の非課税枠(Nil Rate Band)は325,000ポンド、住宅を家族に相続させる場合(Residence Nil Rate Band)は追加で175,000ポンドが加算され、合計500,000ポンドまでは非課税というルールが適用されています。
この非課税枠は2030年までは据え置かれることになっております。
非課税枠 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
Nil Rate Band(基本の非課税枠) | £325,000 | 全ての遺産に適用 |
Residence Nil Rate Band(住宅の非課税枠) | £175,000 | 自宅を直系子孫に遺す場合に適用 |
合計 | 最大 £500,000 (*配偶者に相続した場合には本人の非課税枠も引き継ぐことができるので最大 £1,000,000) |
一方で以下の点が見直されるので該当者は注意が必要です。
- ”年金資産も課税対象に含まれる(2027年4月以降)”
これまで「節税・相続対策」として重宝されてきた未使用の年金資産(年金ポット)ですが、政府は2027年4月以降、年金資産を課税対象に含める方針を発表しました。
現在のルールでは、年金保有者が死亡した際、未使用の年金ポットは原則として相続は非課税。特に75歳未満で死亡した場合には、遺族がその資産を税負担なく引き継ぐことが可能でした。
(75歳以降の死亡になると、相続税は非課税ですが、相続者に所得税がかかる可能性があります。)
おそらく、多くの人が年金を利用して相続額を増やそうとしていたかと思いますが、新たな制度では、未使用の年金ポットも相続税の課税対象になりますので注意が必要です。これにより、年金も遺産の一部と見なされ、一定の額を超えた場合には最大40%の相続税が発生する可能性があります。
これらの資産についての申告・納税は、年金管理者(scheme administrator)が行うことになります。個人ではなく運営者側に義務が移ることも留意しておく点です。 - ”死亡保険金も相続資産に含まれる(2027年4月以降)”
死亡保険金(Death Benefits)は通常は遺産とは別扱いとされており、IHT課税の対象外でした。2027年4月以降は相続遺産に含まれるため、IHT課税対象になります。したがって、相続資産が一定額を超えた場合には、納税する必要があります。 - ”農地継承に対する免除が見直される”(2026年4月以降)
現行制度では、農業資産控除(APR:Agricultural Property Relief)として、農地や関連する建物に対し、相続税の最大100%控除が認められています。
しかし、2026年4月以降はこれが大きく変わります。控除額には1遺産あたり最大£1,000,000の上限が設定され、それを超えた分には20%の課税が行われることになります
大規模農家へ多大な影響を与えることが懸念されている税制改正のようです。 - ”事業継承に対する免除が見直される”(2026年4月以降)
現行制度では、事業資産控除(BPR:Business Property Relief)として事業用資産に対しては最大100%の相続税控除が認められています。
しかし、こちらも2026年4月からは控除額が£1,000,000までに制限され、超過分については20%の相続税が課されます。
中小企業や自営業オーナー、ファミリービジネスの事業継承に大きな影響がある税制変更となりそうです。
実際の影響:
- 積み立てていた年金や死亡保険などが相続時に課税されるのは、多くの家庭にとって新たな負担となる。
- 事業継承や農地の相続を考えている家庭では税負担が増加する可能性がある。
対策:
- 生前贈与 (Lifetime Gifts)を計画的に活用する。
(年間贈与非課税枠の利用と7年ルール(死亡から7年前までに行った贈与が相続税の対象になるルール)の把握。) - 資産を信託(Trust)に移すことで課税対象から外す選択肢を検討する。
- プロのファイナンシャルプランナーと連携し、長期的な相続設計を行う。
3. ノン・ドム税制の廃止
「Non-domiciled(ノン・ドム)」税制は、イギリスに住んでいても本国が英国外にある個人は、海外で得た所得や利益を英国に送金しない限り、英国での課税を免れることができる制度です。
海外収入に対してイギリス国内で税金を支払わなくて良いため、外国国籍の人々に都合の良い制度でしたが、制度そのものが「不公平」だと問題視され、2025年4月以降、この制度は段階的に廃止されます。
新制度では、「居住年数」に基づいて課税されるようになり、ノンドム特有の税的恩恵は段階的に消滅します。
こちらについては複雑なので、また調査してまとめたいと思います。
💡初年度の外国所得に対する課税の一時的免除:新制度の初年度(2025-26年)においては、外国所得に対する課税が一時的に50%免除されます。
実際の影響:
- 海外で所得がある外国人居住者(特に高所得者層)は税金対策の見直しを迫られる。
対策:
- ノン・ドム税制を前提とした資産保全対策をしていた方は早急に見直す。
- 移行期間の優遇制度を活用し、負担を分散する。
4. 燃料税の凍結と延長
燃料税(Fuel Duty)は、ガソリンやディーゼルなどの燃料にかかる税金です。燃料税は2011年以降、一定に据え置かれており増税されておりません。加えて、過去数年は1リットル当たり5ペンスの減税措置を実施しており、2025年もこれらの方針を延長すると発表しました。
現在の税率は、1リットルあたり約52.95ペンス(5ペンスの減税を適用した値)となっています。
参考: https://www.reuters.com/world/uk/uks-reeves-announces-no-increase-fuel-duty-2024-10-30
実際の影響:
- 自動車利用が多い地方在住者や配達業、運送業などへの負担軽減が継続される。
注意点:
- 環境政策と燃料税のバランスには今後も注目が必要。将来的に税制再編の可能性も十分ありえる。
5. 印紙税の追加課税
印紙税(Stamp Duty Land Tax: SDLT)は、不動産の購入時にかかる税金です。現在、住居用不動産には一定の価格帯ごとに階段式の課税率が適用されています。2025年に以下の変更が実施されます。
課税対象金額区間(価格帯) | 2025年3月31日までの税率 | 2025年4月1日以降の税率 |
---|---|---|
£0 ~ £125,000 | 0% | 0% |
£125,001 ~ £250,000 | 0% | 2% |
£250,001 ~ £925,000 | 5% | 5% |
£925,001 ~ £1,500,000 | 10& | 10% |
£1,500,001 以上 | 12% | 12% |
その他、以下の点にも注意が必要です。
追加住宅(Second Home):すでに住宅を所有している個人が、2軒目以降を購入する際に適用(+5%)。
非居住者(Non-UK Resident):過去12ヶ月間でイギリスに183日以上滞在していない購入者(+2%)。
初回住宅購入者には別途優遇措置(First-Time Buyers Relief)あります。
こちらも2025年から変更があるので注意が必要です。
対象条件:
・賃貸目的ではなく自己居住用
・イギリスで初めて住宅を購入する個人
項目 | 2025年3月31日まで | 2025年4月1日以降 |
---|---|---|
完全免税上限 (税率0%) | £425,000 | £300,000 |
5%課税 | £425,001 ~ 625,000 | £300,001 ~ £500,000 |
上限価格を1ポンドでも超えると、この優遇措置は一切適用されません。その場合は通常の印紙税率が適用されます。
移住してきて居住住宅購入を目指す方で、優遇の利用を検討する場合、2025年4月からは500,000ポンド以内の物件を探す必要がありますのでご注意ください。
またも増税となり、少し悲しくなりますね。
https://www.gov.uk/stamp-duty-land-tax/residential-property-rates
実際の影響:
- 不動産購入時の税金の支払いが増える可能性が高い。
対策:
- 購入価格を優遇範囲内に調整する。
まとめ
直近のイギリス税制改革についてまとめました。資産運用から将来の相続にまで幅広く影響しますね。
「税金」の話は複雑で難しいですが、制度を理解し、タイミングよく対応策を打つことで、大きな差が生まれます。
常にアンテナを張っておくように努めたいですね。
私自身も、今回の変更を受けてISAの活用を増やしたり、資産の組み替えを検討し始めました。特に、不動産購入については、最近興味を持ち始めたのですが、今回の変更で少し気が重くなりました。もう少し調べて、購入の検討などしていきたいと考えております。
少しでも皆さんの生活設計のヒントになれば嬉しいです!みなさまの知見や対策なども、ぜひコメントで教えてください。
Cheers! オクタ
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